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広島高等裁判所 平成9年(う)139号 判決 1998年9月08日

本店所在地

広島県呉市広白石四丁目一四番一号

株式会社協和しゅんせつ

右代表者

藤本純雄

本店所在地

広島県呉市阿賀北七丁目三番四号

株式会社芳信建設

右代表者

紙朝則

本籍

広島県呉市広白岳四丁目一三二一六番地

住居

広島市南区宇品海岸一丁目一〇番七-六〇六号

会社員

大髙民朗

昭和一四年一月二六日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、平成九年五月三九日広島地方裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から各控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官饒平名正也出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人株式会社協和しゅんせつを罰金六〇〇〇万円に、被告人株式会社芳信建設を罰金二〇〇〇万円に、被告人大髙民朗を懲役一年八月にそれぞれ処する。

被告人大髙民朗に対し、原審における未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入する。

被告人大髙民朗に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は、被告人三名の連帯負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、主任弁護人丸山明、弁護人森川憲明及び同岡秀明連名作成の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

論旨は要するに、被告人三名に対する原判決の量刑はいずれも重過ぎて不当であり、被告人株式会社協和しゅんせつ(以下、協和しゅんせつという。)及び被告人株式会社芳信建設(以下、芳信建設という。)に対しては罰金額の減額を、被告人大髙民朗(以下、大髙という。)に対してはその刑の執行を猶予するのがそれぞれの相当である、というものである。

そこで、原審記録を調査して検討する。

一  本件は、港湾土木工事等の事業を営む協和しゅんせつ及び土木建築請負業等の事業を営む芳信建設の両株式会社の実質上の代表者であった大髙が、(一)協和しゅんせつの現場作業員大本俊男(以下、大本という。)及び同経理事務員西本タツヨと共謀の上、協和しゅんせつの業務に関し、法人税を免れようと企て、昭和六〇年七月一日から平成元年六月三〇日までの四事業年度において、公表経理上、大本に対する材料費、外注費等の架空工事原価を計上し、同原価の支払として振り出した協和しゅんせつ振出名義の小切手等を換金し、呉中央信用金庫等に簿外の預金を設定するなどの方法により各事業年度の所得を秘匿した上、呉税務署長に対し、各事業年度とも内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって各事業年度における正規の法人税額と申告税額との差額合計三億二一八〇万六六〇〇円を免れた、(二)大本及び芳信建設の経理事務員菅美由紀と共謀の上、芳信建設の業務に関し、法人税を免れようと企て、昭和六〇年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの三事業年度において、前同様の方法により振り出した芳信建設振出名義の小切手等を換金し、前同様により簿外の預金を設定するなどの方法により各事業年度の所得を秘匿した上、呉税務署長に対し、各事業年度とも内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって各事業年度における正規の法人税額と申告税額との差額合計一億三六九六万八六〇〇円を免れたという法人税法違反の事案である。

二  大髙が両被告人会社の業務に関して行った本件各犯行は、ほ脱税額が総額四億五八七七万五二〇〇円に上る多額なもので、ほ脱率も高く、会社の従業員を使い、大本から虚偽の請求書を出させて同人宛に小切手等を振り出すなどの方法により行われた組織的かつ巧妙で悪質な犯行であり、本件各犯行を主導した大髙の責任は重い。

そうすると、原審当時、<1>芳信建設の関係では、修正申告による納付税額及び更正決定に応じて納付した税額を合わせると、本件ほ脱税額の全てと加算税及び延滞税を完納していること、<2>協和しゅんせつは、本件ほ脱事犯で起訴された後、公共事業の受注ができず、事業が行き詰まって、事実上倒産の状態にあること等の被告人三名(右<1>)あるいは協和しゅんせつ(右<2>)のために酌むべき事情や、<3>大髙が、両会社の業務に関し、本件各法人税ほ脱行為を行ったのは、両会社の経営、特に港湾土木という不測の事故等の可能性があって経営に不安定な要素を含む協和しゅんせつの経営を安全確実なものとするためということにあり、個人的な私利私欲のためにのみ行ったのではないこと、<4>大髙は、本件の捜査が開始された後、協和しゅんせつの取締役及び芳信建設の代表取締役をそれぞれ辞任して、以後両会社の実質的経営に関与していないこと、<5>大髙には、前科前歴がなく、扶養すべき妻子があり、特に長男は知的障害のため看護を必要とすること等の大髙のために酌むべき事情等の原判決言渡し当時存した諸事情があるものの、原判決言渡し当時を基準にする限り、大髙に対し懲役一年八月の実刑を、協和しゅんせつに対し罰金八〇〇〇万円を、芳信建設に対し罰金三〇〇〇万円をそれぞれ科した原判決の量刑がそれぞれ重過ぎて不当であるとまではいえない。

三  しかしながら、当審における事実取調べの結果によれば、<1>大髙は、原審当時は大本が独立の事業主体であるなどとしてほ脱税額を争うなどしていたが、原判決の言渡しを受け、自己の主張が社会的に是認されないことを悟り、当審においては、率直に各法人税をほ脱したことを認めていること、<2>原審当時において、協和しゅんせつの関係でも、修正申告による納付税額及び更正決定に応じて納付した税額を合わせて八五七一万六二七七円を納付していたことが判明したこと、<3>原審当時において、本件各ほ脱事業年度とほぼ重複する時期の昭和六一年一月一日から昭和六三年一二月三一日までの三年分の大本の所得税の納付に関し、大本が独立した事業者であるとの被告人三名の当時の主張に沿い、協和しゅんせつが蓄積した簿外資金から、協和しゅんせつ及び芳信建設の各下請業者として受注した大本の事業所得という形をとって、新たに修正申告として合計一億五六七六万四三〇〇円を納付していることが判明したところ、大本の右納税をもって、法律上は協和しゅんせつによる本件ほ脱税の納税と同視することはできないものの、当審において、前記のように大髙が納税義務を認めた結果、大本は納税義務がないのに納税したことになるため、右納税は、協和しゅんせつが出捐して大本名義の納税という形で国庫に納付したという実態を有し、これを大本に返還するなどの措置も講じられていないことに照らすと、本件の税ほ脱による国庫収入に及ぼす影響は、ほぼ右納税額に見合う金額において事実上減少しているということができること、<4>大髙は、原判決言渡し後、新たに、自宅を担保に提供するなどして芳信建設から借り入れた金員等により、協和しゅんせつの納税関係として平成一〇年二月から六月にかけて合計七七九五万七〇一五円を納付しており、<2>の原判決言渡し前に納付した分を合わせると、協和しゅんせつの分についても、昭和六一年六月期及び昭和六二年六月期の各事業年度の税額は完納となり、ほ脱税額は、昭和六三年六月期分と平成元年六月期分を合わせた合計一億六〇〇〇万円弱に事実上減少したこと及び<5>大髙は、自己の反省の気持ちを表す方法として呉市社会福祉協議会に二〇〇万円の贖罪寄附をしていること等の被告人三名のための酌むべき新たな事情が認められ、これらの事情に前記原判決言渡し当時に存した情状を併せ考慮すると、大髙に対しては、直ちに実刑に処するよりも、その刑の執行を猶予して社会内において更生の機会を与えるのが相当であると認められ、また、両会社に対する各罰金額も多額に過ぎると認められるから、原判決をこのまま維持するのは相当でない。

よって、刑訴法三九七条二項により、被告人三名に対する原判決をいずれも破棄し、同法四〇〇条ただし書により、当裁判所において、各被告事件について、更に判決する。

原判決が認定した罪となるべき事実に原判決が挙示する法令を適用し(刑種選択及び併合罪加重の処理を含む。)、被告人両会社についてその罰金額の範囲内で、大髙についてその刑期の範囲内で、協和しゅんせつを罰金六〇〇〇万円に、芳信建設を罰金二〇〇〇万円に、大髙を懲役一年八月にそれぞれ処し、大髙に対し、平成七年法律第九一条による改正前の刑法二一条を適用して原審における未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入し、大髙に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、原審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文、一八二条により、被告人三名に連帯して負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒木恒平 裁判官 松野勉 裁判官 大善文男)

平成九年(う)第一三九号

控訴趣意書

被告人 株式会社協和しゅんせつ

同 株式会社芳信建設

同 大高民朗

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、控訴を申立てた趣意は左記のとおりである。

平成一〇年二月一二日

主任弁護人 丸山明

弁護人 森川憲明

弁護人 岡秀明

広島高等裁判所第一部 御中

第一 (控訴の趣意)

被告人株式会社協和しゅんせつ(以下「被告人協和しゅんせつ」という)、被告人会社芳信建設(以下「被告人芳信建設」という)及び被告人大高民朗に対する原判決の量刑は、いずれも重きに失し不当であるので、これを破棄し、被告人協和しゅんせつ及び同芳信建設に対しては罰金刑額の減額を、被告人大高に対しては刑の執行猶予の各処遇を求める。

第二 (控訴の理由)

原判決は、(一) 被告人大高は、被告人協和しゅんせつの現場作業員大本俊男、同経理事務員西本タツヨと共謀の上、被告人協和しゅんせつの業務に関し法人税を免れようと企て、昭和六〇年七月一日から平成元年六月三〇日までの四事業年度において、右大本俊男に対する材料費、外注費等の架空工事原価を計上し、同原価の支払いとして振り出した被告人協和しゅんせつ振出名義の小切手等を換金し、簿外の預金を設定するなどの方法により取得を秘匿した上、各事業年度における虚偽の法人税確定申告を行い、もって、不正行為により被告人協和しゅんせつの四事業年度における法人税総額三億二一八〇万六六〇〇円を免れ、(二) 被告人大高は、被告人協和しゅんせつの現場作業員大本俊男、被告人芳信建設の経理事務員菅美由紀と共謀の上、被告人芳信建設の業務に関し法人税を免れようと企て、昭和六〇年一〇月一日から同六三年九月三〇日までの三事業年度において、右大本俊男に対する材料費、外注費等の架空工事原価を計上し、同原価の支払いとして振り出した被告人芳信建設振出名義の小切手等を換金し、簿外の預金を設定するなどの方法により所得を秘匿した上、各事業年度における虚偽の法人税確定申告を行い、もって、不正行為により被告人芳信建設の三事業年度における法人税総額一億三六九六万八六〇〇円を免れたとの本件各公訴事実を認定し、被告人らに対し有罪判決を言い渡した。

これに対し、被告人らは、いずれも右有罪認定を認め、当審においては事実関係を争わないが、以下に述べるような被告人らに関する本件の犯情並びに情状を鑑み、量刑処遇の面で控訴裁判所の寛大な処断を求める。

一 本件罪体の規模は、法人税の逋脱額の面において、被告人協和しゅんせつの関係で、昭和六〇年七月一日から平成元年六月三〇日までの四事業年度にわたり総額三億二一八〇万六六〇〇円の、被告人芳信建設の関係で、昭和六〇年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの三事業年度にわたり総額一億三六九六万八六〇〇円の合計総額四億五八七七万五二〇〇円に達し、その逋脱額は高額であり、この点において被告人らの責任が重いとする検察官の指摘も首肯しうるところであり、高額の脱税という面からの非難は免れないが、他方これを実質的な逋脱額という面からみると、原判決が被告人協和しゅんせつの現場作業員と認定した本件共犯者大本俊男において、被告人協和しゅんせつ及び被告人芳信建設の各下請業者として受注した事業所得という形をとって、本件逋脱事業年度と重複する時期の昭和六一年一月一日から昭和六三年一二月三一日までの三年分の所得税の納付に関し修正申告を含め、昭和六一年分五七一五万四五〇〇円、同六二年分五二一八万五五〇〇円、同六三年分五〇一二万八〇〇円の合計一億五九四六万八〇〇円が納税されていて(大本俊男の昭和六一年分ないし同六三年分の所得税の確定申告書の写、弁16ないし18、同人の昭和六一年分ないし同六三年分の各所得税修正申告書写、弁20ないし22、被告人大高の原審公判における供述-平成四年九月一〇日付公判調書一二五項ないし一四五項、同一〇月八日付公判調書一五項ないし二六項、同年一一月一二日付公判調書一項ないし一四項)、被告人協和しゅんせつ及び同芳信建設との関係で右大本俊男が独立の下請業者であることを否定される本件事案の下にあっては、右大本の行った納税は、被告人協和しゅんせつ、同芳信建設が行う納税と実質において同視しうる関係にあり(大本俊男を被告人協和しゅんせつの現場作業員とする原判決の事実認定に立脚してみるとき、大本は被告人協和しゅんせつから毎月三〇万円程度の給与の支給を受けていて、その年収は三百数十万円にとどまり、各種の所得控除を差し引いた課税所得はきわめて僅かとなる-大本小春の検察官に対する平成三年三月二〇日付供述調書、同添付の大本俊男の昭和五九年分の所得税の確定申告書写、検117、西本タツヨの検察官に対する平成三年三月一〇日付供述調書 検128-)、右の限度で本件逋脱総額は事実上減少(二億九九三一万四四〇〇円)しているということができ、このことは本件の量刑因子として十分考慮に値する事情というべきである。

二 本件は、共犯者大本俊男を下請業者に仮装して同人に対する工事原価を計上し、被告人協和しゅんせつ及び同芳信建設の各所得を圧縮して、支払うべき法人税を逋脱したという事犯であるところ、その態様は、大本俊男が材料を納入していたように見せかけるため、右大本から虚偽の請求書を提出させ、同人への支払いを仮装すべく小切手、約束手形を振り出して現金化するという方法をとっていて、被告人協和しゅんせつ及び同芳信建設の各経理事務員を取り込んでの組織的な犯行と見うる余地も多分にあるが、反面において、大本の所得に転化させただけで、大本が下請業者の受注者としてその所得にかかる税金を支払わなければならない関係が依然として残る点(前掲の大本俊男に関する昭和六一年分ないし同六三年分の所得税の確定申告書写及び修正申告書写参照)からみても、行為態様は完全な脱税とまではいい難く、手段も直ぐ発覚するような単純幼稚さを伴っていて、いちがいに犯行態様が悪質とまでは言いきれないものがある。

三 本件犯行の動機についてみるに、被告人大高は、捜査段階において、「海の工事の場合事故の補償がついてまわる。事故が起こると多額の補償金が必要となって会社の存続が危うくなる。そのため事故に備えて責任をとってくれる下請けを作るということと、そのための資金を貯えておくということで大本を下請けに使っていた。このようなやり方を考えたのは、あくまで被告人協和しゅんせつの安全を考えて行ったもので、下請けのことを考えてやったものではない。」(被告人大高の大蔵事務官に対する平成二年一月七日付供述調書、検264)、また原審公判において、「港湾土木は陸上土木と異なり、時に海底のヘドロの地辷り等不測の事故のため埋立地及びその上の構造物の崩壊事故を起し、巨額の損害を蒙ったり、工事による海洋汚染による巨額な漁業補償を余儀なくされる等、時に事業の存立を脅かす事態に至ることがある。このようなことで、港湾土木業者は右事態に対処し、企業防衛のため補償窓口として下請業者をあてる例が多く、協和しゅんせつにおいても、その意味を含めて大本土木を下請けとして使用していた。そして、不測の事態に立ち至った際の補償積立金として、本来の下請工事代金に上乗せして代金を大本土木に支払っていた。ところが幸いにも事故が起こらなかったので、数年前から大本土木に支払い手続をとった金のうちから、大本の下請代金を除く金額を被告人大高が他人名義で預金したり、架空名義で預金あるいは株を購入したりして保管していた」(原審第二、四回公判調書中の被告人らの公訴事実認否)と述べていて、このことから窺えるように、被告人大高は、被告人協和しゅんせつ及び同芳信建設の経営者として、右両会社の経営を安全確実なものとする意図から、不測の事態に備えての、簿外蓄積を行っていたもので、現にその一部は、本来正規に支出が認められるような役員、従業員の賞与や取引先等に対する交際費等に充てられている(被告人大高の大蔵事務官に対する平成二年一月二〇日付供述調書 検265、検察官に対する平成三年五月二三日付供述調書 検272、原審公判平成四年六月四日付公判調書三一四項ないし三二九項)ほか、簿外蓄積にかかる資金の中から、本件逋脱事犯の修正申告及び更生処分にかかる納税並びに前掲大本俊男にかかる昭和六一年分ないし昭和六三年分の三年分にわたる所得税の修正申告にかかる納税に充てられていて(被告人大高の原審公判平成四年九月一〇日付公判調書、同年一〇月八日付公判調書)、被告人大高ら専ら個人的な私利、私欲のためにのみ行われたものではない。ちなみに、被告人大高は、被告人両会社が簿外蓄積を行っていた期間中に自己家屋の新築を行っているが、この資金は自らの銀行借入で賄っていて、個人的用途に右簿外蓄積分を取り込む等しておらず、この点は、本件動機に関する補充に含め控訴審の審理の中で立証を行いたい。

四 被告人協和しゅんせつは、本件によるほ脱事犯で起訴された後の平成六年六月六日、同会社が広島県に対し有する請負工事代金に関し、国税当局による差押処分が行われたことから、これら公共機関等による工事の受注から締め出され、原審公判継続中既に事業経営が不振に陥って、現状では事実上倒産の状態にある(控訴審で立証予定)。また、被告人大高は、本件法人税法違反事件で検察当局の取調べが開始された後の平成三年三月二五日被告人協和しゅんせつの取締役を、同月三〇日には被告人芳信建設の代表取締役はもとより取締役もそれぞれ辞任していて(商業登記簿謄本、検33、205)、以後右両会社の実質的経営に関与していないのであって、二度と今次のような違反行為を繰り返すおそれはない状況にある。

五 本件逋脱税額は、原判決認定のごとく被告人協和しゅんせつ及び同芳信建設の両社合計四億五八七七万五二〇〇円であるところ、前記一で指摘した事情を斟酌すれば、その実質逋脱額は二億九九三一万四四〇〇円と評価されるところ、原審当時において、被告人協和しゅんせつ及び同芳信建設は以下に述べるような税の納付を行っている。

(一) 被告人協和しゅんせつ関係

1 昭和六一年六月期(昭和六〇年七月一日~同六一年六月三〇日)

平成元年 六月三〇日 修正申告分 四二一万七四〇〇円

自平成六年 六月二七日 更正分 四二〇七万一〇〇〇円

至平成六年一〇月二三日

合計 四六二八万八四〇〇円

2 昭和六二年六月期(昭和六一年七月一日~同六二年六月三〇日)

平成元年 六月三〇日 修正申告分 五七二万三四〇〇円

自平成六年一〇月 三日 更正分 二九八七万六九七七円

至平成六年一〇月一八日

合計 三五六〇万〇三七七円

3 昭和六三年六月期(昭和六二年七月一日~同六三年六月三〇日)

平成元年 六月三〇日 修正申告分 三八二万七五〇〇円

合計 三八二万七五〇〇円

(二) 被告人芳信建設関係

1 昭和六一年九月期(昭和六〇年一〇月一日~同六一年九月三〇日)

平成元年 六月 七日 修正申告分 九〇七万三〇〇〇円

平成四年一〇月二六日 更正分 九五五五万〇二〇〇円

合計 一億〇四六二万三二〇〇円

2 昭和六二年九月期(昭和六一年一〇月一日~同六二年九月三〇日)

平成元年 六月 七日 修正申告分 一九三万九七〇〇円

平成四年一〇月二六日 更正分 九七万二七〇〇円

合計 二九一万二四〇〇円

3 昭和六三年九月期(昭和六二年一〇月一日~同六三年九月三〇日)

平成元年 六月 七日 修正申告分 七九七万三七〇〇円

平成元年一〇月 四日 再修正申告分 一三三九万八〇〇〇円

平成四年一〇月二六日 更正分 一一〇九万五七〇〇円

合計 三二四六七四〇〇円

以上から明らかなように、被告人芳信建設の関係では、その逋脱額の全てと加算税及び延滞税を含め完納しており(被告人芳信建設の修正申告書及び再修正申告書の各写、弁23、24、控訴審に提出予定の被告人芳信建設関係の納税明細書 弁 号)他方被告人協和しゅんせつの関係では、昭和六一年六月期分は本税分の完納を了し、同六二年六月期分は、本税の一部三五六〇万三七七円を修正申告及び更正分として納付し、昭和六三年六月期分は、本税の一部三八二万七五〇〇円を修正申告分として納付していて(控訴審で提出予定の被告人協和しゅんせつ関係の納税明細書 弁 号)、残存逋脱実額は七七九三万一八二三円に減縮されており、これら被告人両会社の実害回復に向けての努力は量刑上十分考慮されてしかるべき事情というべきである。

六 被告人大高は、昭和三三年四月広島県職員に採用され、以後県土木建築部に所属して県下の土木建築事務所に勤務した後、本庁土木建築部河川課、同部港湾課に各勤務して昭和五四年七月一日退職、同月被告人協和しゅんせつの前身である株式会社協和産業の設立に加わり、同社取締役に就任(同年一一月)するとともに、昭和五七年一一月被告人芳信建設の代表取締役に就任し、以後両会社の経営に参画している過程で本件法人税法違反事件を起し、その責任をとって前記四記載のとおり本件違反事件の起訴の前後頃右両社の役員の地位を辞任して現在に至り、平凡な社会人として家庭を守り地道な生活を続けているところ、今までに本件違反を除いて刑罰法令に触れるような前科前歴は皆無である。また、家庭には妻絋子(五四歳、無職)のほか長男譲(二九歳)及び長女智恵(二五歳)の二人がいて、これら妻子を養なっている(被告人大高の検察官に対する平成三年三月八日付供述調書 検161、原審公判平成四年二月二七日付公判調書一項ないし一八項、大高絋子の検察官に対する平成三年三月一一日付供述調書 検119、広島県総務部人事課長作成の捜査関係事項照会について「回答」と題する書面 検32、)。とりわけ、長男譲は生来の知的障害を有し、成年後もその障害の影響で就職もままならない状態にあり、長女智恵は結婚適齢期にあり、これら子女にとって被告人大高はかけがえのない存在である(控訴審で立証予定)。なお被告人大高は現在被告人芳信建設の社員として営業関係の仕事に従事して生計を立てるかたわら、被告人協和しゅんせつの社員の肩書を併せてもち、事実上倒産状態にある同会社の整理を手伝い、現在、国税当局により差押さえられている右会社所有物件の任意売却による同会社の滞納税の納付に努力しているところである(控訴審で立証予定)。

第三 (原判決後の情状)

一 被告人大高は、原審の有罪判決を厳粛に受けとめ、現在では全面的に法人税法違反の事実を認め、自らの行為を深く反省しているが、さらに、反省の気持ちを表わす方法として、社会福祉関係に相当額の贖罪寄附を行うべく、目下その金策等を行っており、その結果を控訴審に提出する予定である。

二 被告人協和しゅんせつの本件逋脱にかかる法人税の残存逋脱額は、第二の五掲記のごとく七七九三万一八二三円となるところ、被告人大高及び被告人協和しゅんせつは、国税当局が差し押さえていた第一生命相互保険会社の定期付終身保険(保険契約者株式会社協和しゅんせつ)

三口について、原判決後の平成一〇年一月国税当局の了解のもとにその解約手続をとり、右解約返戻保険金合計三七五万七〇一五円を同月二六日右残存逋脱税額に対する納税分として納付したほか、残余についても、株式会社芳信建設振出、株式会社協和しゅんせつ裏書の金額二〇〇〇万円の約束手形を国税当局に交付し、もって可能な限り納付を行うべく目下最大限の努力を続けており、その成果は控訴審で提出する予定である。

第四 (むすび)

前記第二の一ないし四に掲記した犯罪の客観的側面からの犯情並びに同五、六に掲記の被告人ら自身にかかわる情状に照らすと、被告人らに対する原判決の量刑はいずれも刑の量定が不当に重いものと思料されるが、さらに、前記第三の一、二に指摘する原判決後の情状立証の結果をも十分斟酌され、原判決を破棄して被告人らに寛刑を、とりわけ、被告人大高に対しては刑の執行猶予の処遇を求める次第である。

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